時刻は午後6時。あたしは一人で神社の前に立っていた。
「…まだかなぁ」
きょろきょろと辺りを見回すが、隼人の姿は見えない。
「何やってんだろ」
今日は夏祭りの日。あたしは彼氏の獄寺隼人と行く約束をしていた。
しかし、その隼人はまだ来ていない。
あたしは鏡を取り出すと、珍しくアップにした髪をチェックする。
この日のために浴衣を新調して、髪もきちんと結えるようにしたのだ。
「ねぇ、君一人?」
「俺らと遊ばない?」
そうして立っていると、高校生らしき男数人に話しかけられた。
「や、人を待ってるんで……」
「そう言わないでさぁ。もしかして彼氏とか?」
「まだ来ないみたいだし、ちょっとくらい付き合ってよ」
そう言うと男の一人が腕を掴んだ。
「やっ、やめてください!」
「いいじゃん、ちょっとだけだからさぁ」
あたしは何とか離れようとするが、腕をがっちりと掴まれていて逃げられない。
高校生たちは、そんなあたしの様子を面白がっている。
「おいっ、テメェら何やってんだよ!」
「…っ隼人!」
「お、彼氏サマのご登場か?」
隼人は近づいてくると、男の一人を殴りつけた。
「―ってぇ、やったなクソガキ!」
から手ぇ離せ」
隼人はあたしの腕を掴んでいる男の胸倉を掴んで睨みつける。
「―ちっ、行くぞ」
男はあたしの腕を離すと、立ち去っていった。
あたしは隼人がいつもよりカッコ良く見えて、ドキドキしていた。  
「…大丈夫か?」
「う、うん…」
あたしが答えると、じゃ行くか、と隼人は歩き出した。
あたしはその後ろをついて行く。
神社に入ると、露店が立ち並んでいて人が溢れていた。
「うわぁ、人がいっぱい…」
あたしははぐれそうだなぁ、と思って立ち止まる。
隼人はそんなあたしの様子に気付いて振り返った。
「…どうかしたか?」
「や、何かはぐれそうだなぁと思って…」
あたしが素直にそう言うと、隼人は隣に来てあたしの手を握った。
「…これではぐれねぇだろ」
「…うん」
あたしは恥ずかしかったけど、隼人の手を握り返した。
隼人の顔も少しだけ赤くなっていた。




「次行きてぇ所あるか?」
「えっと… 金魚すくいやりたい!」
色々露店を回ったが、隼人はあたしが言う所に文句も言わず付き合ってくれる。
「…ほら」
「あ、ありがと」
あたしはポイを受け取ると、しゃがんで金魚をすくい始める。
これが、なかなか上手くいかない。
「…また逃げられたぁ」
「…下手くそ」
隼人はちょっと笑顔になっている。
あたしはその笑顔にときめいてしまって、照れ隠しに隼人につっかかる。
「じゃあ隼人がやってみてよ」
「よーし、見てろ」
隼人はオジさんから新しいポイをもらうと、あたしの隣にしゃがんだ。




「よっしゃ5匹目!」
「すごい隼人!上手いじゃん」
隼人はイタリア育ちなのに、金魚すくいが上手だった。
「っと、破けちった」
「じゃあこれ金魚5匹ね。はい」
あたし達は金魚を受け取ると、歩き出した。
「楽しかったぁー」
「…そうだな」
もう他にすることもなく、後は花火が始まるのを待つだけだ。
あたしは歩きながら隼人のことを考えていた。




高校生に絡まれていたとき助けてくれた隼人。
喧嘩が強いのは知ってたけど、実際に殴るところを見たのは初めてだ。
…でも、カッコ良かった。あたしのために、他人を殴ったのだ。
少しだけ、愛されてるなぁ、って実感がわいた。




それから金魚すくい。
あんなにはしゃいだ隼人を見たのはやっぱり初めてだけど、子供っぽくて可愛かった。
また来年も、一緒に来れたらいいなぁ…




「…なぁ」
あたしがそんなことを考えてると、隼人が話しかけてきた。
「な、何?」
「…浴衣、似合ってるぜ」
すげぇ可愛い。
あたしはそれを聞いて顔が熱くなるのが分かった。
「…あ、ありがと」
「…おぅ」
あたしはドキドキしすぎて、隼人の顔が見れない。
さっきから隼人にドキドキさせられてばっかりだ。
どうしよう。



「…、来年も一緒に来ような」
「…うん」
あたし達は微笑み合うと、しっかりと手を繋ぎ直した。