飼い犬に手をかまれる

「お前はここに残ってほしいんだ」

俺がそう言うと、は一瞬悲しげな顔をして、震える声で「…どうして、ですか」と言った。

俺はそんなの表情に動揺したのを悟られないよう、平静を装って言った。

「…お前は女だからな」

その言葉に、は今にも泣き出しそうな顔をすると、部屋を飛び出して行ってしまった。

「…ボス」

俺が小さくため息をつくと、ロマーリオが口を開いた。

「あれじゃが可哀想だぜ」

俺にだって分かってる。あんな言い方じゃを傷付けるだけだってことぐらい。

…俺は不器用だから、他の言葉なんて思い付かなかったんだ。

「ボスは何でに残ってほしいんだよ?」

俺が黙っていると、ロマーリオは言葉を続けた。

そんなの決まってんだろ。今回は今までより危険な任務なんだ。それでが傷付くところなんて見たくない。

  「…が好きなんだ。大切なんだよ」

俺は一気に喋った。するとロマーリオは大袈裟にため息をついて、呆れたように言った。

「それをに言ってやれば良かったんだぜ、ボス」

そして立ち上がった俺の背中を押した。

「早くを追いかけてやれって」

俺はその言葉が終わる前に駆け出した。













俺が街中を走り回って、やっとを見つけた時には、辺りは薄暗くなっていた。

「…っ!」

俺が叫ぶと、はゆっくりと振り向いた。

「…ボス」

どうして、とが言う前に、俺はを抱きしめた。

「ボス…?」

「…心配したんだぜ」

「っごめんなさい!でも、私…」

尚も言葉を続けようとするを制するように、俺は抱きしめる腕に力を込めた。

「…は悪くねぇ。俺がお前の気持ちを考えてなかったんだ」

「…ボス…」

「…俺は、」

そこで俺は言葉を止めた。今自分の気持ちを伝えたところで、は納得してくれるのだろうか。

「…ボス?」

そうして黙っていると、が不思議そうに顔を見上げてきた。

「お前が、」


「…お前が、好きなんだ」

は黙っているけど、俺は言葉を続ける。

「だから、危険な任務にはを連れて行きたくねぇんだ。お前が傷付くところなんて、見たくないんだよ」

これって我が儘か?と問うと、は首を振った。

「…私、ボスがそんな風に想ってくれてたなんて知らなくて… ごめんなさい…」

「…いや、は気にすんな」

「…ちゃんと、」

「ん?」

「…ちゃんと、帰って来ますよね?」

そう言ったの肩は少し震えていて、涙を堪えているんだということが分かった。

「…ああ」

俺はそんなを安心させるように、額にひとつキスをした。

「ちゃんと帰ってくるから、」

だからイタリアで待っててくれ。

「…はい」

は頷くと、俺の背中に腕をまわした。



(絶対、君を一人にしたりしないから)