終わりと始まり
「―っは、はぁっ」 どうして、 「待てぇっ!!」 「―っ!」 こんなの違う。 「…、」 「やっ!」 急に肩に手を置かれ、あたしは思わずその手を振り払う。 後ろにいたのは獄寺だった。 「あ、…ごめん」 「…いや、悪ぃな」 そう言って獄寺はあたしから目を逸らす。 きっと、あたしの身体に無数にある痣を見ないように。 「…」 そのままお互いに黙り込んでしまい、気まずい空気に包まれる。 「…あたし帰るね」 獄寺から逃げるように背を向けると、獄寺は腕を掴んだ。 「…、」 もうやめろ。 その言葉が示す意味を分かっているあたしは、何も答えずただ首を振るだけ。 獄寺の想いは痛い程伝わってくるが、それを受け入れる事は出来ない。 「…獄寺、」 ありがとう。 ごめんね。 そう言うと、獄寺は掴んでいた腕を離し俯いた。 あたしは獄寺の顔を見れなくて足早に教室を出て行く。 「…また明日」 もしかしたら叶わないかもしれない言葉をそっと告げて。 「…またお前他の男といちゃついてたな」 いつものように容赦なく殴られる。 「っちが…!」 「口答えするなぁっ!!」 脇腹を少しの加減もなく蹴り上げられ、あたしは床に崩れ落ちた。 「っ!!」 あまりの衝撃に一瞬呼吸が止まる。 「…まだまだこんなもんじゃねぇぞ」 今日という今日はタダじゃおかねぇ。 その言葉に、本当に殺されると思った。 「ぅぐっ!」 急に男が吹っ飛ぶ。 同時にあたしの目に飛び込んできたのはさらっとした銀灰色の髪。 「…ごく、で…」 切れ切れに名前を呼ぶと、獄寺はあたしをチラッと見て小さく舌打ちをした。 「…んだよてめぇ」 男は血が滲む口元を拭い獄寺を睨みつける。 獄寺は何も答えない。 その様子に痺れを切らしたのか、いきなり獄寺に殴りかかった。 「っらぁ!」 獄寺は相手の攻撃をかわし逆に殴りつける。 そして床に倒れた男の襟元を掴むと、もう一発殴った。 「…ご、く」 「は黙ってろ」 その有無を言わせない口調に、あたしは大人しく黙るしかなかった。 「っう、ぐ…」 「出てけよ」 襟元を掴む手に力がこもる。 「これ以上に手ェ出したら、」 二度と立ち上がれなくしてやるぜ。 獄寺が手を離すと、男は「ひ、ひぃ…!」とさっきまでの様子が嘘のように悲鳴を上げ逃げて行く。 あたしはその様子を呆然と見ていた。 獄寺は男が出て行くとすぐにあたしを抱き上げソファーへと座らせる。 「…大丈夫かよ」 「ごく、でらぁ…」 獄寺の顔を見たら涙が溢れてきて、あたしは獄寺にしがみついた。 「っ怖、かっ…」 獄寺は何も言わずにあたしを抱きしめ、時折安心させるように髪を撫でる。 そんな獄寺の優しさに、あたしの目からはまた涙が溢れる。 「…俺が、」 俺が傍にいるから。 その言葉に、あたしは何度も頷いた。